はじめに
この話は、フィクションです。フィクションなのです。
なのです。
ふらっと教室に立ち寄った
5時間目。体調を崩してしまった子を保健室に連れて行くと、近くの教室から脱走してきたと思われる男の子が、意固地になり教室へ戻ることを拒否しているシーンに遭遇。相手をしているのは担任ではなくてサポーターの方。バトンタッチしましょうか。
「どうしたの?教室行こう?」と介入。その子、興奮しています。話を「そうだよねぇ。うん。そうだよなぁ。」と全部肯定して落ち着かせる。「でもさ、教室戻らないと、みんな心配してるよ?一緒に行こう?」と誘う。「うん…」と戻ることを選んでくれた。よしよし。
それで、担任は何してるかと思えば、別のトラブルが起きているところを仲裁中でした。そして、その間授業がストップしているために、走り回る子たち多数…。
やべぇな、こりゃ。
放課後、時間をもらい、その先生と話をすることにしました。
さて、フィクションらしく…視点をその先生に変えてみましょう。
希望に満ちあふれていた、春
4月2日。大学を卒業したばかりの私は、社会人として小学校の門をくぐりました。
翌日の担任発表で2年生と言うことが分かり、ワクワクしていました。
「どんな子たちかなぁ」「楽しく1年過ごせるかなぁ」
思えば、そんな風にワクワクしていたのって、その時だけでした。
今では、放課後になると必ずと言って良いほど保護者からの電話。
それが無くても、トラブルが起きて軽いけれどもケガをしてしまったおうちと、ケガをさせてしまったおうちに電話。
放課後まで手をつけることすら出来なかった宿題プリントの丸付け。
授業の準備…。
気がつくと21時を過ぎています。5月の残業時間は80時間を超えていました。
家は寝るだけの場所に。
布団の中に入ると、今日の日の反省会が勝手に始まります。あのとき、あぁしていれば良かったなぁ、こう言ったら良かったのかなぁ…。知らず知らずのうちに、涙が出ていました。
後からなら、改善策が思い浮かんでくるのに、その時にはいっぱいいっぱいで思いつくことが出来ません。
「私、この仕事、向いてないのかな…。」
いけない、明日も始発で学校に向かわなきゃ。おやすみなさい。
気づけなかった自分をぶん殴りたい
何を隠そう、私も1年目のクラスは荒れに荒れたという経験の持ち主でございまして、そりゃぁもうひどかったです。授業が授業として成り立たない状態。指示が通らないことがこれほどまでに無力なのかと思い知った一年間でした。隣の学年主任の先生のクラスも崩壊。いやー大変な学年だった。
だからこそ、一年目で頑張っている先生のヘルプに気づいていなかった自分をぶん殴りたい気持ちだった。
一年目といっても2種類ある
一年目といっても2種類ありまして、本採用教員は、法定研修がガッツリありますし、代替の方も入るので、手厚い研修です。
ところが、臨時的任用の教員は研修がほぼありません。
教員となってイロハのイも学ばないうちから、完璧に担任をすることを求められます。
OJTここに極まれり。(放置)
悪循環が始まる
保護者の方からすれば、そんな事情は知ったこっちゃないので、
「なんてダメな先生なの!?」という見方が定着し、「電話して一言申さなきゃ」という方が毎日してくれる電話の対応に忙殺され、本来しなくてはならないはずの「教えること」の準備に時間が取れずに終わります。そして授業が充実しないためクラスはうまくいかず、精神的にもすり減る。
この悪循環。控えめに言って地獄です。
話を戻しますが、私が感じた「やべぇな」は、「先生の心がすり減ってる」という意味です。もちろん子どもたちへの対応もしなくてはなりませんが、クラスの屋台骨である担任が心身ともに元気で無いと、子どもたちへ適切な指導はできないでしょう。そういった意味ではまずその方のことをどうにかするのが先決だと思ったのです、が。
「低学年ブロックと高学年ブロックという、かなり遠い立ち位置にある私が、関わって良いものか。」
という葛藤がありました。出しゃばってる訳ですよね。学年の先生、ブロックの先生を差し置いて話をしたり、教えたりするってことは。
でも、私のずーっと続いている考え方に「職員室の空気は絶対に悪くさせない!」というポリシーがありまして、今回は後で謝ればいいやと、出しゃばり承知で、その日中に話を聞きました。
泣き出す先生
話をする中で、残業時間のこととか、家に帰って楽しいこととか趣味はあるのかとか、ちょっと踏み込んで聞いてしまったのですが、とにかくその方から感じたのは、「一生懸命やろう」とし過ぎているということ、責任感の強さ。
いっぱいいっぱいのはずなのに、どうにか笑顔は維持しようとしている。でも、さすがに10年以上もこの職についていると、取り繕っている笑顔はすぐに分かってしまいます。
「こんなこと聞くの、悪いとは思うけどさ、思い詰めすぎてない?このクラスの状態から、自分は先生に向いてないとか、そういう風に考えたりしてない?」
しまったと思ったのですが、聞いてしまった。
その瞬間、その先生からぼろぼろ溢れる涙。
「実は、そういうことも、思ってて、本当に、私、ダメだなって、思ったり、(略)」
あー、やっぱりそこまで思い詰めていた。そして、あまり関係が無い私に言えちゃうくらいに切羽詰まっている。これは本当にマズいぞ、と。
行動開始です。
校長先生と教頭先生に話を通す
自己評価シートに係る面談(人事評価)というのがこの時期ありまして、その最後で今回の件を伝えます。この現状は見ていられない、確かにブロックも違って出しゃばりと思われるかも知れないけれども、話を聞いたりしたい、よろしいでしょうか。
といった内容。断られる訳は無いのですが、話を通しておくことに意味があるので話を通しました。
学年の先生に話を通す
2年生の先生方にも話を通します。こういった理由で、これは私のわがままなのですが、どうしても関わらせていただきたい、よろしいでしょうか。
といった内容。こちらも話を通します。
つなげる
さて、私ができること。一番得意なこと。それは、「つなげること」です。
あるものが得意な人と、それを不得意とする人をつなげる。
私は話を聞いて、どのようなニーズがあるかを想定し、それへの解を持っていそうな人をつなげる。
そこから始めることにしました。
とりあえず第1弾として、若手を誘って夕飯を食べに行くことに。年齢が上過ぎる人がいるとあまり話せないだろうから、若手だけで。(仕切りを若手の先生にお願いしたら、何故か私も若手にカウントされていた。)
これで少しは不満を吐き出して、共有して、自分の悩みを自分だけで抱えないようにしてくれれば、良いのだけれど…。
一つだけアドバイスした
しがない私の経験から、一つだけアドバイスをしました。
「絵本の読み聞かせをしてごらん。授業の時間が減るのはその通りなんだけれども、これは時間的コストを支払う価値がある。」
1週間後。
「絵本の読み聞かせやりました。少しずつ話を聞いてくれるようになってます!」と満面ではないものの、心からの笑みを浮かべながら話をしてきてくれました。
その手応えが全てのスタート。学年が違っても、ブロックが違っても、同じ職場で働くもの同士、困ったときには助け合いたいと思っています。
私は何だかんだ言って、自分が楽しく働きたいだけなんです。
笑顔で働きたいだけ。だから職員室に笑顔じゃない方がいることが気になって仕方なかった。
だから、もしかすると今回の行動は、私のエゴの押しつけかも知れない。
どれが正解かなんて、後から分かることですが、私は私のできることを続けようと思います。
おわりに
この話は、フィクションです。フィクションなのです。
なのです。