パパ教員の戯れ言日記

このブログの発信は個人としての発信です。こんな教員もいるのかと思っていただければ幸いです。

「教育データ利活用アンケート」に答えてみたら、アンケートじゃなく見積もりだった件

国の流れと標準化の概要

GIGAスクール構想で全国の学校に1人1台端末が整備されました。
次のステップとして国が進めているのが、「バラバラな教育システムをつなぐ」ことです。

そのために策定されているのが 「初等中等教育におけるシステム間連携のための相互運用標準モデル V5.00」
ここでは教育システム同士をつなぐためのルールがまとめられています。主なものは次の3つです。

  • OneRoster(ワンロスター)
    学校の名簿(児童生徒やクラス情報)をどんなシステムでも同じ形式で扱えるようにする仕組み。

  • LTI(エルティーアイ)
    学習ポータルから外部教材やアプリにワンクリックで入れるためのログイン・起動の共通ルール。

  • xAPI(エックスエーピーアイ)
    誰が・いつ・どんな教材を・どう使ったかを共通形式の「学習ログ」として残す仕組み。

要するに「子どもも先生もシームレスに学べるように、みんなで同じ言語を話そう」という試みです。理念は分かりやすいのですが、これを現場のシステムに落とし込むとなると話は別。今回のアンケートにも、その“重さ”がにじみ出ていました。


アンケートかと思いきや、見積依頼でした

今回回答した「教育データ利活用に資する学習ツール等の状況に関するアンケート」。
最も衝撃的だったのが設問3-11です。
これは、「3-8 現在、全て又は一部の学習eポータルと接続していない理由は何でしょうか。(複数回答可)」で、
金銭的な負担が大きいと答えると出現する項目です。

具体的にどのような金銭的な負担があると想定されるかについて、金額規模も含めて詳しく記入してください。

ざっくりと「めちゃくちゃ金かかりそうだからやめとく」、というつもりで選択したつもりが、
「システムを標準準拠に再構築したら、要件定義から差分分析、工数試算、人月換算まで全部出してね」というレベルの質問をサラッと投げてきます。

つまり答えるには――

  • 仕様を理解し、
  • 要件を洗い出し、
  • 現行との差分を分析し、
  • 工数を試算して人月換算し、
  • 金額を算定する。

……ほぼ ミニ開発プロジェクトの見積もり です。

例えるなら、「修学旅行の行き先を日光から鎌倉に変えるのはどう?」と軽く聞かれて「値段上がるんじゃないっすかね」と返したら、次に「鎌倉に変えるとして、宿を探して交通費を計算して行程表まで全部作って出して。参考にするから。よろしく!」と言われたようなもの。
アンケートに答えていたはずが、気づけば“無料見積もり依頼”を受けていたわけです。

回答必須じゃないのが良かっただけで、無茶ぶりではあります。


背景にある仕様書(V5)

この無茶ぶりの背景には、先ほど紹介した「初等中等教育におけるシステム間連携のための相互運用標準モデル V5.00」があります。
OneRoster、LTI、xAPIといった国際規格を踏まえた立派な仕様書で、「これを守れば教育システムはつながる」というビジョンが示されています。

理念としてはまったく正しい。けれど現場から見ると、仕様書は “辞書”にはなっても、“地図”にはならない
「どこからどう組み込むのか」が見えてこず、独立型システム(ピースAIのような仕組み)では再設計レベルの負担になります。


サンプルが欲しいのです

実は仕様書の最後の方には、たしかにサンプル例(CSVの書式やJSONのひな型)が載っています。
けれど、それらは“紙の上の例”にすぎず、実際に動かせる参照実装やテスト環境ではありません。

現場にとって切実に欲しいのは、手元で動かして確認できるサンプル
もちろん、それだけで全てが解決するわけではありません。システム全体に組み込むには要件定義や設計の手間が必要で、サンプルを動かすのとは次元の違う苦労があります。
それでも「最初の一歩を踏み出すハードル」を下げる意味で、公式のデータセットやテスト環境が用意されていれば、現場はずっと動きやすくなるはずです。

今のところはデジタル庁にもそういった環境は出ていないようです。


標準化に潜むもうひとつの懸念

もう一点、心配していることがあります。
標準準拠を強く求めれば求めるほど、対応できるリソースを持つ大手ベンダーだけが生き残り、
小回りが利いて本当に現場のニーズに応えられる小規模事業者やNPOが排除される可能性があります。

さらに、eポータルに接続する際の料金を取る事業者もあり、中には「Apple税」のように利用料の30%を取るケースもあると聞きます。(参考:教育現場での「データ利活用」なぜ進まない? 教育DXの「意外な盲点」 ) もしそうした構造が公的な学習サービスの中で固定化すれば、「教育データの胴元」が生まれてしまう。
それは教育の多様性や公平性にとって、あまり好ましい状態ではありません。


他にもツッコミどころ満載

アンケートでは3-11以外にも「突っ込み待ち?」と思える設問が散見されました。

  • 「準拠してますか?」からの二段コンボ
     準拠していないと答えたら、次は「今後準拠予定はありますか?」。両方「いいえ」と答えると、なんか準拠してない方が悪いみたいな感じになってきます。

  • 接続しない理由=ネガティブ四天王
     「必要性感じない」「金銭的に負担」「技術的に難しい」「調整に至ってない」など。まるで「できない言い訳を選べ」状態。

  • 「分かりにくい点を詳しく書け」無限ループ
     技術的に難しいを選ぶと、どの点が難しいですか?と聞かれる。難しくて分からないから困っているのに、「詳しく書け」と要求されるメタ矛盾。

アンケートというより、半分は“尋問シート”に近いものを感じました。


とは言え、理念は応援します

結局のところ、「教育データ利活用アンケート」に答えたはずが、無料の見積依頼をされていたというオチでした。
仕様書もアンケートも立派なのは分かるんです。でも現場としては「まずは分かりやすさを」「そして動くサンプルをください」が切実な本音。

もちろん、サンプルがあれば全てが片付くほど単純ではありません。
それでも「辞書を厚くする前に、迷子にならないための地図を」。
そして、標準化の名のもとに一部の大手だけが利益を独占するような構造を作らないこと。

これが、今回アンケートに答えて一番強く思ったことです。